【小さな日本庭園】〜五坪からつくる小庭 〜その1(紹介編)
十川日本庭園研究室です。
今回より限られたスペースでも日本庭園の趣きを愉しむことができる小庭と、その作庭方法について投稿いたします。本庭は「和琴庭(わきんてい)」と称し、五坪の敷地に蓬莱神仙の世界観を幾何学的な竹垣のデザインを用いることで幻想的に表現したものです。今回は和琴庭の全体的なご紹介をさせていただきます。
施工内容は私自身が25年前に沓脱石・縁台・敷石等、犬走り周りを施工したものに、今回新たに石組と竹垣、そして水琴窟を盛り込んでリニューアルしたものとなります。
初回工事である25年前、私自身が若い時分のイメージでは、石垣や桂垣を組み込む露地(茶庭)の様式でしたが、今回は、お施主様からの要望によりゴミの溜まらない枯山水様式。そして、歩きやすさも重要視されていましたので、鉄平石を敷き詰めることといたしました。狭い敷地なので細部にわたり遠近法を用いた「一木一草」の無い設計となります。
目次
①石組み
母屋の南側を中心に東側に三尊石組形式の蓬莱島、中央は伊勢の呉呂太石(ごろたいし)で波をかき分けた舟石、そして西側は岩島の表現と致しました。
三尊石組形式の蓬莱島(手前)
左手奥の舟石は出船。これから蓬莱山に媚薬を求めに行くイメージを表現
波をかき分けている舟石(中央)
玄関前から最初に目に入る立石と、奥に小ぶりな石を用いることで庭が広く見えるように工夫いたしました。
遠近法を利用した石組み
②飛石
飛石は敷石風な配石から始まり、歩きやすさを重視しました。
歩きやすさを重視した配石
奥の縁台前では平面的に犬走りの敷石の曲線に合わせたデザインとなっています。
左手上方の敷石と同じ曲線を描いた飛石(中央)
石臼については大きさと高さを変えることで変化をもたせています。
また、関守石や結界竹をかけるのではなく、歩きづらくしました。
手前から奥に向かって石臼の大きさと高さを増して、変化を
③竹垣
竹垣は敷石のデザインに影響を受けたもので、三面各8マスに縦・横・斜め45度(左右)の四方向に貼り込んだ竹の向きを全て隣り合わない形での創作垣としました。
縦・横・斜め45度(左右)の四方向に貼り込む。手前の袖垣も同意匠
蓬莱島奥は鉤手形に組んだ押縁
黒竹は扇面を象り、日の出と日の入りをイメージして東側と西側の二箇所に配置。
「日の出」の扇面(東側)
竹垣中央はやや内側へ織り込むことで、室内に涼風が吹き込むように計算しております。
風を取り込むため、反射を計算し中央を内側へ織り込む
一部の庭石に対しては竹垣をまたがせて、接する面の竹を石の輪郭に沿って切削しています。
石の形状に合わせて竹のあたり角を決定
船石への竹垣のあたり面
岩島への竹垣のあたり面
魔除け代わりの削ぎ落とし
④水琴窟
水琴窟は瓶を二つ使用し、それぞれを塩ビ管で繋ぎ、一方から排水枡に落とし込むことで瓶内の水滴が三か所で落ちます。また、そのうちの一か所は水量を増やし、耳をすますと瓶どうしを繋いだ中の配管から一定のリズムで音が聞こえます。
中央の大きなゴロタ石で二方向のみずみちに分かれ、左右の瓶に注ぎ込む
筧は龍頭をイメージしたもので、竹垣の裏から横樋が出ています。
龍頭のイメージ
筧の横樋は竹垣の裏面から
⑤コケ・化粧砂利
コケは近隣の道路や隣の家から頂いたもので、三種類混ぜ合わせ、残ったもので管理する予定です。コケは移植してつかなくてもその環境で繁殖したものは枯れません。砂利は全て伊勢ゴロタおよび伊勢砂利です。
化粧砂利と敷石を違和感無く連続させるため以前に施工した敷石の基礎は改めて洗い出しを行いました。
25年前に施工した敷石と化粧砂利を同調
③おわりに
上記以外にも、こだわった点が多々ありますのでご参考にしていただければ幸いです。
自身が注力した点は下記の通りです。
・犬走りの目地は深目地の化粧仕上げと基礎の洗い出し
・竹垣を掛けた石組み
・敷石から影響を受けた竹垣の押縁や構成の細部
・玄関前からの遠近法
この庭を当主の一字を賜り「和琴庭」と命名いたしました。本庭が時を経て万人の鑑賞となれば幸いです。
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